転がる玉は気持ちがいい 〜トラックボールの話〜

十数年来、トラックボールを使っている。
理由は、マウスよりも気持ちがいいから。
パソコンに向かって作業していると、当然だけれどもデジタルな道具を相手にすることとなるわけで、そこに温かみとか心地よさの介在する余裕はない。
……ように思いがちだけれども、やはりそこは道具の世界、ちょっといいキーボードを使うと原稿書きの憂鬱な気分は多少なりとも和らぐし、いいディスプレイは「目にやさしい」などと表現されもする。

そしてトラックボール。
トラックボールももちろんマウスと同様、入力された信号をデジタルに変換するデバイスではあるのだが、玉を転がし慣性を使ってカーソルを移動させるという独特の操作がある。昔のボールマウスもそうした使い方をすることがあったが、トラックボールは、それがさらに顕著だ。
この慣性を使ったカーソル移動が、僕にとって実に気持ちがいいのである。
手首を大きく動かさずにカーソルを移動できるという実用上のメリットもあるが、ただ用もなく、原稿を書いていて次のフレーズに困った時などにゴロゴロッと玉を転がすのが、もうクセになっている。
けれども、どうやらこの気持ちよさを愛する人は少数派らしく、大型電器店のパソコン売り場でもトラックボールは片隅に追いやられているのが現状だ。

そんなトラックボールの調子が悪くなった。
僕が使っているケンジントンの「SlimBlade」という機種は、ボールをつまんで水平に回転させると、画面をスクロールさせることができるのだが(そしてこれがとても便利なのだ)、4年ほど使用したせいで、リング部分のメッキがはがれてきてしまった。

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はがれたメッキの部分が、ほんの少しだけ親指に鈍い刺激を与える。
僕がトラックボールを使っている理由は「気持ちがいいから」なので、このごくわずかな刺激は、気持ちよさをスポイルしてしまう。

同じものを購入しようかとも思ったが、少々値の張る物なので迷っていたところ、ニッチなトラックボール市場に新製品が登場していたことを知った。

エレコムの「M-XT1URBK」という商品だ。

多機能で安価なのもさることながら、この商品には「握りの極み」という、築地のすし屋みたいなキャッチコピーが添えられているのが魅力的だ。
握るとさぞかし気持ちがいいんだろうなと思い、Amazonで購入した。

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早速使ってみたが、たしかに握り心地がいい。
僕にとって久しぶりの親指操作型トラックボールなのだが(SlimBladeは人さし指と薬指でボールを操作する)、以前使っていた親指型よりも手のひらに吸い付くような使い心地だ。

僕の手は日本人の平均よりも大きめなので、もうひとまわりくらい大きい方が好みかなとも思うが、使いにくいほどではない。
専用のドライバを入れると、5つのボタンに独自の機能を持たせることができて、利便性も高い。
なのだけれども、特にボールの動きに渋さがあるというか、転がり方がなんちゅうか本中華、はっきりいってチープなのだ。
もちろん、機能的には何の問題もないのだけれど、気持ちよさがないのである。SlimBladeがウエットな転がり感なのに対して、こちらはとてもドライだ。
これは好みの問題であり、慣れてしまえばどうってことないのかもしれないが、やはり気になる。
カーソルを動かしていても、雨の日に長靴の中で靴下が半分脱げてしまったような、歩けないわけではないけれど心地よくない、そんな感じがしてしまう。

やはり、SlimBladeを買い直すべきなのだろうか、と悩んでいたところ、ケンジントンのトラックボールは保証期間が5年なのを思い出した。
Amazonでの購入履歴をさかのぼると、購入したのは2010年8月とある。まだ保証期間内だ。
しかし、保証書なんてものはとっくに捨てている。
ダメでもともとと思い、メンテナンス窓口であるアコ・ブランズ・ジャパンに電話してみたところ、Amazonの購入履歴が残っていれば保証の対象になるとのことで、無料で新品と交換してくれるというではないか。
なんとありがたいことでしょう。すぐに手続きを進めてもらい、数日後には新品のトラックボールが手元に届いた。

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やはりこれですよ。ああこの感触。しっとりとしたボールの操作感は一流パティシエが焼いたスポンジのよう。
指先に吸い付くように動くカーソルの心地よさ。ボールを大きく転がした時のカーソルの追従。すべてがしっくりとくる。

ケンジントンのカスタマーサポートが七陽商事からアコ・ブランズ・ジャパンへと移管した時、聞き覚えのない会社名にやや不安を感じたが、同社のサポート窓口は応対もよく対応も迅速で、その不安は杞憂であることがわかった。
このトラックボール、操作が気持ちいいだけでなく、トラブルの対応も気持ちがいい。
つぎに壊れるまで、どうか販売を続けてもらいたいものだ。

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