夕飯を食べようとラーメン店に入った。
となりになった客が、1人でしゃべるタイプの人だった。
彼はラーメンと餃子とライスを食べていて、酒類は飲んでいなかったので、酔っているわけではなさそうだ。なのでたぶんそういう癖の人なのだろう。
話している内容は、
「グループ長がなぜこの事実を知っているのか!」
であった。
これは、ここに書くために文語体で表現しているのではなく、一言一句この通りにしゃべっていたのである。
何度も繰り返していたので間違いない。まるでこの通りに話していたのだ。
はたしてグループ長が、本人は知り得ないはずの事実を本当に知っているのかどうか、僕には知る由もないが、もし仮にグループ長が何か秘密を知っているのだとしたら、それはあんたがそうやってしゃべっているからだろう。と僕は思う。そう思うが、それはそれでいい。
ここでどうしても気になってしまったのが、ラーメン店のお姉さんの反応だ。
お隣さんが「グループ長がなぜこの事実を知っているのか!」と言うたびに、中国人風のお姉さんが「ごチュモンですかー?」と用を聞きに来るのだ。
お隣さんはお姉さんの問いかけを一切無視して餃子をタレにつけてご飯の上に乗せ、またタレの小皿に戻すことを繰り返している。
お姉さんは小首を傾げつつ、仕事に戻る。
そして少し間があくと、また「グループ長がなぜこの事実を知っているのか!」と言い、「ごチュモンですかー?」とたずねる。
餃子は小皿とご飯を行き来する。
僕はその隣で、ラーメンを食べた。