生ハム生活ふたたび

生ハムが届いた。
以前、デイリーポータルZでも記事を書いた、まるまる一本の生ハムが、である。
それも、買っていないのに、だ。

「金の斧」という寓話がある。
鉄の斧を落とした木こりがヘルメス神に「なくしたのは『金の斧』か『銀の斧』か」と問われ正直に答えたところ、金・銀・鉄の三本の斧を授かった、というストーリーだ。

この場合、木こりは斧を落としてしまうのが話の始まりなわけだが、斧を落とさずとも金の斧が手に入るという、奇跡のようなことが起こったのだ。

生きているというのは、それだけですばらしいことなのだ、と改めて思った。

■ことの次第

先日、昨年4月の記事で生ハムを購入した「グルメミートワールド」さんから一通のメールが届いた。
「新製品が出たので、お試しになりませんか?」と。
僕は、新しいソーセージとか、ハムのスライスとか、そういう食材のお誘いかと思い、「はい、よろこんで!」と即答したのだが、よくよくメールを読んでみると、「熟成骨付き生ハム原木」とあるではないか。

なんと。
いや、なんとまあ太っ腹なことで。
もし僕が子供なら、括約筋のコントロールを失っていただろうほどの喜びだ。

あの記事以来、グルメミートワールドさんには懇意にしていただいて、生ハムの原木を提供してもらってイベントを開催したこともあったが、まさか僕個人にまでこんなプレゼントをいただけるなんて。
しかし、もらいっぱなしというのも気が引けるので、放置していたブログに、この生ハム原木を食べ尽くすまでの様子を記していこうと思う。

■開封までの道のり

というわけで、クール便で生ハム原木が届いた。
さっそく開封して食べちゃいたいところではあるが、そうしてはいけない。
冷蔵で届いた生ハム原木を、室温に慣らさなければいけないのだ。
そうすることで、結露による水分活性の活発化を防ぎ、また冷蔵で眠っている乳酸菌が働きやすくなるという。
これは、生ハム原木を最後までおいしく(常温保存でも一年くらいは余裕で)楽しむための、儀式なのである。

段ボール箱を開封し、説明書などを取り出しまた封をする。
そして翌日、パウチされた生ハム原木を段ボール箱から取り出し、さらに一昼夜。

その翌日、ようやくパウチから生ハム原木を取り出し、生ハム台にセット。

そしてもう1日、外気に慣らす。
到着から4日目にして、ついに生ハムにありつけるというわけだ。
ここまで、かなり待ち遠しい日々が続くわけだが、宝くじを買ってから当選発表までの間と同じように、一口目の味を想像したり、どんな風に食べるかなどを計画したりしながらワクワクと過ごすことができて、なかなか楽しいものだ。

■いよいよカット

ちなみに届いたのはこちらの商品、「ハモンイベリコ・ベジョータ44ヶ月熟成骨付き生ハム原木」だ。
前回はイベリコではない「ハモンセラーノ」だったので、はたして最上級豚の味はどんなのだろう。想像するだけで、口の中が潤う。

同封の解説書にしたがって、表面の「皮」の部分をそぎ落としてゆくと、美しい赤身とプリンとした脂身が顔をだした。

我慢などできるわけもなく、真っ向勝負のつまみ食いである。
「恋も二度目なら 少しはじょうずに 恋のメッセージ 伝えたい」と歌ったのは中森明菜だが、生ハムの最初の一切れは、口にした瞬間、僕に猛烈な幸せを運んできて、この「おいしさ」という名の天使からの恋のメッセージを、をじょうずに伝えるなんていうことは不可能だ。

うま味というのは、こんなに種類があるか、というのがまず一番の感想だ。
舌の上に、さまざまなベクトルの至福が広がる。
それも、一度に。
肉の力強さと、その奥からわき出るやさしさ。そして脂身の芳醇さが、ほかの諸々をふくめてじんわり、かつ大胆に舌を躍るのだ。

いつまでもつまみ食っていては進まないので、ある程度カットして、サラダといっしょに食べてみることにした。

ベビーリーフとブロッコリスプラウトを、オリーブオイルとバルサミコ酢のドレッシングであえて、生ハムといっしょに食す。
生ハムまで混ぜてしまうと、バルサミコ酢の影響か「酢じめ」のようになってしまうので(それはそれで大変うまいのだが、初回はストレートに味わいたいので)、別の皿に盛った。

ドレッシングには塩を加えず、生ハムの塩味だけで食べるのだが、やはり最高の組合せだ。
生ハムはチーズやトマトや、他にもいろいろな食材と合うのだけれど、「若い葉っぱ」と食べるのが、生ハムの味が楽しめて、「基本」という感じがする。

うむ、生ハムはやっぱりうまい。
というわけで、次はトマトといっしょに食べようか。

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